クマの戯言

不定期・ノージャンルで日々感じた事を書き綴る

ジョン・ケージ「ユーロペラ5」 続き

さて、特に取り繕うこともなく続けていこう。

よく言われることではあるが、「聞く」と「聴く」、「見る」と「観る」の違いを考えることはとても重要なことである。この作品は、聴衆に、その違いに対してある意味強制的に向き合わせようとするのである。

作品の構造はどういうものなのか?おいらは、有難いことに稽古初日に演出家からこの作品の解説を聞く事が出来た。その上でこの作品を拝見することが出来たので有意義だったが、いきなり観た客の皆様はどうだったのだろうか?

このブログを当日観に行った方の誰かが読むことはないと思うが、一応自分なりの解釈を書き記そう。

まず、舞台に記された64のマス。これは一切の設定を持たない、一切関連性のない64の場所。現時点、ここには年代も名前も固有性を持たない。
その上に、ピアノ、照明の操作盤、音響の操作盤、蓄音機、TVが配置される。歌い手2人はマスの外の自分の待機椅子にいる。照明は舞台を照らすことはない。

そこで各々の出演者が各々の作業をこなす。つまり、そのアイテムが置かれたマスが、クジで置かれたもので最初の情報を手に入れる。

その上で行われる事。
歌い手の歌、ラジオ放送、照明の変化、TV放送、ピアノ演奏、蓄音機の再生、それぞれはそれぞれのマスに、時代、時間、場所等を与える。

つまり、1時間の中に割り振られたタイムテーブルは、それぞれを無作為に動かすキッカケだけで、そこに登場するのは、ある時代のピアノ付き稽古のピアノパートだけであったり、ある場所で行われているオペラ公演のアリアの歌だけであったり、現在のTV放送であったり、ある人物が聴いているレコードの音であったりする。時代、場所、人物・・・、いわゆる5W1Hを一旦排除して、一箇所に集め無作為に取り出す、ということをやるわけである。

すごい発想である。「4分33秒」もすごい発想だが、こちらも発想としては十分な効果を持つ。

しかし、おいらは疑問しか残らなかった。これはただの実験であって、決して音楽的なものではない。音楽を実験材料にして切り刻み問題定義しているだけだ。

特に腹立たしかったのは、2人の日本を代表する歌い手に与えられた(強いられた)状況の理不尽さだ。ピアニストも大変だっただろうが、ピアノという楽器はすでにそこに音が用意されていて叩けば音が出る。ピッチは狂いようがない。音楽的コントロールは困難になるが、そんな大層なものにこの作品は興味を示さない。歌はそうはいかない。この作品が「オペラ」という単語を表記に含むため、各歌い手はオペラ・アリアを5曲ずつ用意したのだが、そこには歌以外の味方を持たない。
セットも、あらすじも、性格も、オーケストラもなにも助けてくれるものはいない。他の共演者達は彼女達の音楽の妨害者に豹変する。
彼女達はこの作品のいけにえなのだ。一流の音楽家として、この困難な状況でなんの手がかりも持たず、完璧に歌うことを要求される。
失敗すれば、笑われる、自分に悔やむ。しかし、無事歌えたとしても、そのアリアは伴奏を持たない不完全なものの上、いろいろなノイズに邪魔される、聴衆にはその困難さは伝わらない。ひねくれた解釈かもしれないが、この作品は彼女達が失敗することで生身が生身たる所以を教えようとするのである。両手両足をもぎ取って、「失敗しないようにお願いします。」とあざ笑うのである。しかも一流の歌い手、聴衆がよく認知しているプリマでなければ失敗に価値を持たない。

作品の意義と音楽の本質が矛盾して存在しているのである。
おそらく、おいらより見識の深い方々からすれば、ここに書いた文章は稚拙なのかも知れないが、あくまでおいらの感じた作品の感想である。
各々が答え、あるいはヒントを得れればいいと思う。

この作品に携わった歌い手二人には改めて心より「お疲れ様でした。」と言いたい。

最後に今回学んだことを書き記す。おいらは「音楽」とはバッハの頃から積み重ねられた偉大な学問だと考えている。しかし、この作品は漠然とおいらの全ての知識、感性に問いかけるものだった。もし、演出家の最初の解説がなければ、ここに書いたことは存在しない考えかもしれない。この世に存在する全てのものに触れることは絶対に出来ない。この作品はその事を教え、それでも、それに触れれば何かを感じる事は出来る、と教えてくれているのではないだろうか?

次回再演に携われる機会が巡ってくるなら、仕事としてはもちろん断る理由を持たないが、一、音楽を愛する者としてなら絶対お断りする。






さて、絵を載せる。2005年の「CHICAGO」のカンパニーにプレゼントしたもの。忙しい中大急ぎで描き上げたが、ひさびさに(まさに)自画自賛なものが描けたと思ったことを記憶している。途中でボールペンのインクが切れ、別のものを使い色むらが出たのはショックだったが・・・。

20070914004624.jpg


20070914004646.jpg

  1. 2007/09/14(金) 00:47:39|
  2. ボールペン画掲載
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  1. 2007/09/15(土) 04:22:49 |
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